相対性理論で過ごす夏休み
少しでも長い夏休みを過ごしたい。
そんなことを、誰もが一度くらい考えたことがあるのではないでしょうか。
でも、そもそも「長い夏休み」とは何でしょう。
カレンダーの日数が多いことなのか。
自分が感じる時間が長いことなのか。
それとも、ほかの人から見て長く休んでいることなのか。
そこで、こんな世界を考えてみました。
もし夏休みの終了が、みんな共通のカレンダーで決まるのではなく、それぞれが持っている時計が8月31日を過ごし終え、9月1日を迎えたら終了する世界だったとしたら――。
そして、時間の進み方そのものが人によって違っていたら、三人の夏休みはどうなるのでしょうか。
そんな疑問から生まれたのが、この物語です。
数学界隈のトップアスリート、たかしくん。
彼は光速に近い速さで走り続け、自分自身の時計で8月の31日間を過ごします。
相対性理論によれば、速く動くものほど、静止している人から見た時間の進み方はゆっくりになります。
そのため、たかしくん自身にとっては普通の31日間でも、地球で待っている人たちから見ると、たかしくんの時計が8月31日になるまでには、もっと長い時間が必要です。
つまり、
たかしくんにとっては31日。
でも、待っている人たちにとっては、それよりずっと長い夏休み。
では、もっと身近な速さでも時間は変わるのでしょうか。
そこで登場するのが横山くんです。
横山くんは、夏休みのあいだ、ただひたすら歩き続けます。
人が歩く程度の速さでは、その時間差はほとんど測れないほど小さなものです。
それでも理論上は、動いている横山くんの時間も、静止している人とはほんのわずかに違います。
亜光速で走ることはできなくても、自分にできる方法で時間に挑んでみる。
三人の中ではいちばん地味ですが、いちばん健気な存在かもしれません。
そして、もう一人。
エベレストの上で寝袋に入り、スマートフォンを見ながらごろごろして過ごすナンシー。
一般相対性理論では、高い場所ほど重力の影響がわずかに弱くなるため、地上より時間がほんの少し速く進みます。
つまりナンシーは、ほとんど何もせず寝ているだけなのに、地上にいる人よりほんのわずかに多くの時間を過ごしていることになります。
速く走る、歩き続ける、高い場所で静かに過ごす。
三人はそれぞれ違う方法で、自分自身の8月を過ごします。
そして夏休みが始まる前の日、三人は学校の前で約束します。
「それぞれの9月1日に、またここで会おう」
三人とも約束を守るつもりです。
けれど、時間の進み方が一人ひとり違うのであれば、三人にとっての「8月31日」も「9月1日」も、同じ日にやって来るとは限りません。
たかしくんにとっての8月31日。
横山くんにとっての8月31日。
ナンシーにとっての8月31日。
同じ日付なのに、それぞれがそこへたどり着くまでに必要な時間は違います。
では、三人の中で、本当に「長い夏休み」を過ごしたのは誰なのでしょうか。
たかしくん自身にとっては、いつも通りの31日間。
横山くんも、ほとんど普通の31日間。
ナンシーも、ほんのわずかな違いしか感じません。
それなのに、外から眺めると、三人の夏休みの長さは同じではありません。
そして、違う時間を過ごした三人は、本当にもう一度、同じ学校の前で出会うことができるのでしょうか。
「長い」とは、誰から見た長さなのか。
そんな問いから生まれた、相対性理論を題材にした少し不思議な夏休みのお話です。
















